『あっけないと思ったら』
しゃぼん玉ふくらませて
ねえこれ見ててよ
と、はしゃいでいる。
昨日
ああこれ絶対インフルだわー
とかいってアルバイトを早退してきたヤツが、
いま私の目の前でぷかぷかしゃぼん玉を作り続けている。
たいへんご苦労なことです。
まあでも、楽しそうだからよかったよ。
そのうちに、ひときわ大きなのが丸く浮かんでった。
いままでのより大きいからなのか なんなのか、
近所の あのデブの犬みたいに
むーって、けだるそうに浮かんでいる。
はいはいこうやって浮かべばいいんでしょって ふてくされてるみたい。
私が、そのデブのしゃぼん玉に触ろうとしたら
両手の手のひらで、持つみたいにして触ろうとしたら、
触れたか触れなかったかくらいで ぴんっとはじけて なくなってしまった。
知ってはいたけど、そのあっけなさに 私はちょっとくじけた
見ててと言ったけど、わってとは言ってないんだよ って、
ヤツは怒ってないくせに怒ってるみたいに言った。
うわ。
割れたしゃぼん玉の中から、ヤツがお昼に食べた餃子の匂いがちょっと、した。
うわ餃子くさい!と私がしかめっつらで言ったら、
インフルエンザ移るかもなって笑った。
(ないない)
そろそろ帰るかって自分で言ったのに、
それでもヤツは膨らませるの全然やめやしない
しゃぼん玉しながら歩き始めた。
私はヤツの後ろ姿から流れてくるしゃぼん玉を、
眺めたりぶつかったりしながら歩いた。
パン食い競争みたいに、
流れてくるしゃぼん玉を口に入れる遊びを考案した私は、
夢中になって口をあけて歩いた。
これもし上手に食べることができたら、
きっとまた餃子の匂いがして、
それってディープキスとおんなじ効果があるのではないかと
くだらないことを考えた。
夢中になりすぎていたら、
どどどどどどどって。
しゃぼん玉が私の顔に次々にぶつかってきた。
ヤツがこっちを向いて、しゃぼん玉 飛ばしているせいだ。
あんまりすると顔が濡れてきちゃうじゃないかよ。
でもさ、気持ち悪いことを言うようだけど
ヤツの飛ばした空気中のものぜんぶ吸い取りたいなって思ったりするよ。
唾とか、
咳とかもさ。
もし、万が一。
ヤツの中にインフルエンザの菌みたいなのがいたとして。(いないけど)
それが私の中に入ってきても
それで私たちふたりとも高熱がでてもいいや。
そしたらこんどはしゃぼん玉どころじゃなくてさ、
私たちの高熱で
気球とか飛ばせたら楽しいな
40度なんかじゃ飛ばないだろうから、
90度になったてかまわない
二人とも熱でタコみたいに真っ赤になって
どっかに飛んでいくのです。
気球に乗ってどこまでいこうかね
ヤツのしゃぼん玉攻撃のせいで
うっすら濡れた顔を 手でぬぐっていたら、
私の手からせっけんの匂いがした。
さっきのデブのしゃぼん玉のにおいだ。
さすがに餃子の匂いは もうしなくって
そのことが ほんの少しだけ、さみしかった。
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